最後の贖罪の旅
10年前…
僕は20代にしてレクサスで運転手を付け後部座席で偉そうに振る舞い、自分でパーキングに入れることも昼食を選ぶこともできない生活をしてしていた
そう人間のクズだ
そしてその数年後に何を血迷ったか多摩川のハーフマラソンにその運転手と出たのが僕のランニング人生の始まりだったと記憶している
言うまでもないが結果は…
いつもなら二日酔いでエアコンの効いたタワーマンションで寝ている日曜日の昼下がり
僕は目の前の石コロがエアーズロックに見えるほどに疲労困憊して青空の下をただただ
「なんでこんなことしてるんだろう」
と呟きながら歩いてゴールを目指していた。
その12時間後に新婚旅行で向かったのがスペインのバルセロナだったのを今とつぜん思い出した。
10年後…
僕はいま明日からはじまるヨーロッパ最難関でもあり世界有数の過酷なレースでもあるアンドラウルトラトレイル ロンダ170と言う100mile(170㎞)山を走るレースに出場するためアンドラ公国に向かう道中
スペインのバルセロナにいる
自分でもなんでこんな事になったのかさっぱりわからない
10年前多摩川のハーフマラソンに出場するために練習を始めたら、1㎞続けて走る事もできなかった
本番は運転手にも余裕で置いていかれ走れたのは最初の4㎞ぐらいだけだった
それがなぜ今ぼくは60時間と言う訳の分からない時間制限の中、確実に二晩は寝ないで標高2000m〜3000mの山岳部を走り続けなくてはならないような事に挑戦しているのだろう
今を生きる
ハーフマラソンがフルマラソンになり
トライアスロンに挑戦して
ウルトラマラソンにエスカレートして
IRNOMANになりたくて
サハラ砂漠を7日間走って
モンブランを100mile走っても
欲張りな僕の心は飽き足らず
止まることを忘れた頭は脳内麻痺したかのように
もっともっと
もっともっと
もっと過酷でキツイことがある
もっとギリギリの所まで行ける
そう自分を奮い立たせて来たらこんな所にいた
人間の欲にキリはない
それでもトレイルのマイルレースは僕にとってその終着地点かもしれない
もっと長い距離のレースも過酷な環境下のレースもあるけれど
スピードと標高や環境と準備も含めて
マイラーと呼ばれる者が最高にキツい
その通りに、十分に準備もしてきたにも関わらず、完走したいのに完走できなかったレースはマイルレースが初めてだ
だから僕は取り憑かれた
サイコパスな僕はできないことをできないまま終わらせられない
とりわけ他人にできてることなら尚更
それが例えどんな困難を含んでいても
それはまるで30歳を過ぎるまで自分本意で身勝手な生き方ばかりしてきて、人を傷つけ踏み台にしてきたことの人生を贖罪するかの様だ
僕にとってこの10年間の走りは結局のところ贖罪であった様に思う
20代までに僕がやってきた生き方はたかだか10年で許されるとは到底思えないが
それでも10年前と違う生き方を少しは出来るようになった気がする
『自分のためより人のため』
僕がこの数年手帳に書いて迷った時悩んだ時に指針にしてきた言葉だ
そしたら
10年前みたいにレクサスも乗れなくなっちゃったし、運転手なんてもちろんいなくてバスで通勤してるけど
10年前より自信を持って言える事は
幸せだ
人は皆、欲望の塊で飽くなき欲求の元に生きている
仕事も会社もお金も成功も夢も愛も
全ては詰まる所は欲望だ
僕がこうして1㎞走れなかったところから100mile走りたくなることも結局は自分が許されている様な気分になる欲だ
だけど人間からその欲がどうせ消えないのなら
これからはもっと自分のためではなく人のためにその欲を使いたい
ぼくは自分の贖罪の旅をこれで終わりにしたい
100mileレースはこれで最後かもしれない
少なくも当分の間は
マイルレースはキツい
レースそのものもそうだが準備や精神や身体への負担
健康も考えて毎日3㎞走り始めたのに気づけば身体に悪いところまで行ってた(笑)
少しだけ疲れてしまった
みんなで始めたマラソンも後ろを振り返ったら誰もいなくてぼく1人で突っ走ってた
会社もそうだ
まずは自分の贖罪を片付けたら次は会社
会社には僕がやらなきゃいけない責務がまだ残っている
それをやり遂げたら
やっぱり少しだけ止まりたい
10年前みたいな運転手付きの楽な生活をしたいとはこれっぽっちも思わないけれど
少しだけ疲れた…静かに生きたい。
次から次へと止まらない欲に任せて生きるのではなく
もう少しだけ今の自分の心の本音に耳を傾けて
10年前にバルセロナに来た時にまだ工事してたサクラダファミリアはまだ工事してた
本当にキリがない人間の欲は
きっとガウディはこんな物創ってないと思うんだ
Andorra Ultra Trail Ronda170
スペインとフランスの国境ピレネー山脈にまたがる小さな小さな国
アンドラ公国🇦🇩
タックスヘイブンのこの国は
10年前の僕なら確実にマネーロンダリングを考えたが、残念ながらいまは青汁王子の様に脱税するほどの金も隠す金も持ち合わせていない
この小さな国を気象荒れ狂うピレネー山脈をグルっと1周170㎞
累積標高13500m
標高2000m〜3000mの間の16ピークを制限時間60時間以内に帰ってゴールだ
見てるだけで具合が悪くなりそうなノコギリ側面図
最後の100mileレースにするには申し分ない
まだアンドラ公国にすら入れてないけどあと24時間後にはレーススタート
怖さもあるけどやっぱりワクワクが止まらない
最後の贖罪はどんな苦悩が待っているのだろう
心残りは彩の国トレニックワールド100mileをやり遂げられなかったことだけど、来年はどうしてもやらなきゃいけない仕事があるから
老後の楽しみに取っておくのもいいかも知れないw
それではレース後に…