レース前日

長い長い3年間のレースが始まる
前夜、しっかり食事を摂って、しっかり寝る
まるでウルトラレースの前夜の気分
長く苦しい1年間だった
レースなんてものは実際は本番よりそこに向けた練習の方がキツくて苦しくてツライもの
この1年間の苦しさは何よりも
やることのない苦しさだった
マグロの様に停まると死んじゃうボクはなによりもヒマが嫌い
お店がなくなるということは
まるで、
作家が本を書けないのと同じ様に
アスリートがオリンピックや大会がなくなり
役者が舞台を禁止され
冒険家が世界に行けなくなり
まるで人間が生きる事をやめさせられたかの如く
ボクにとってたった10年だけど携わらせてもらった飲食店という「場」がなくなり
抜け殻のようだった
ボクはシェフでもなければ料理人でもない
三星レストランの技術もわからないし、寿司職人のような修行をしてきたわけでもない
だけど飲食が大好きだ
1日3食食べたら死ぬまでに食べれる食事は8万食くらいだけ
その1食たりとも食べたくない物は食べたくない
「美味しい」って感じる気持ちは人間が幸せに感じる1つの感覚で、楽しいとか美しいって感じる幸せと同じ人生の貴重な貴重な一瞬
また食べたい 好きな人にも食べさせたい
職人じゃなくてもそんな場を創ることはきっと可能でそれが飲食店の素晴らしさだと思う
日本の飲食は素晴らしいけどそれが誰かの犠牲の上に成り立っている気がしてならないからボクはその仕組みを根底から変えたい
そしてこんな素敵な日本の飲食店を世界に広げたい
そう、ボクにとって飲食店はボクの生き様を表現する場である
アスリートがレースで熱意を伝えるように
役者が舞台で感動を伝えるように
作家が本の中で文章で表現するように
ボクにとって飲食店はボクの伝えたいことを泥臭く真っ向から生き様を表現する場所
その場を1年間失ったボクはリングを失ったボクサーだった
ユニホームを前夜用意するのは1年ぶりのレースの前夜と同じ気分だ
またここでもがこう

仲間が勇足で作ってくれた木札が誇らしく嬉しい
不安はないと言ったら嘘になるけどそれ以上にワクワクしてる。この長い長い戦いがきっとボクの想像以上に苦しくて楽しい未来であることを。
2021.4.11