3回の朝 ANNDORA170㎞

人間は二日間四十八時間走り続けることができるのか?
僕はこの疑問に挑戦してみようと思った。
話が終わってしまうので、なんでそんなことをする必要があるのかと言う愚問はナシだ
こんな僕でもトレイルランナー(山を走る人)の端くれとして
この挑戦をなるべく過酷でキツい舞台にするために選んだのは
『Andorra Ultra Trail Ronda dels cims170』
ヨーロッパピレネー山脈に取り囲まれたアンドラ公国を舞台に
山脈を16ピーク乗り越え170㎞累積標高13,500m
制限時間60時間以内に走る切るという100mileレースだ
この舞台を探すために何人かに相談したところ口を揃えて
「アンドラはキツい」そう返ってくるので選択の余地はなかった
僕にとってこの挑戦はただの1つのレースではなかった
はじめて10年前に多摩川のハーフマラソンに出場して撃沈して石コロがエアーズロックに見えるほど疲労困憊して自分の情けなさに直面してそれでも変われなかった自分がいた
あれから10年…
飲食店を始めてトライアスロンを始めて3年前にトレイルランニングを始めて
10年前のあの日のロクデナシ会会長の自分よりも少しは成長できたのか?
そんな集大成でもあった
【1回目の朝】レーススタート
さぁ散々最もらしい言葉を並べたが
レーススタート後30㎞地点のエイドステーションですでに僕の心は折れかけていた
たったの山を2つ超えただけなのに既に疲労困憊
あと14つも同じ様な山を乗り越えて140㎞も走ると思ったらとてもじゃないが逃げ出したい気分だった
人間は不思議だ
あんなに意気込んで挑んでもその数時間後には必死に頭の中で逃げ出す最もらしい言い分をこれでもかというくらい必死に探してる
弱い弱すぎる
あぁやっぱり僕は10年前から何にも成長してないのかな
それでもこんな所まで来て簡単には諦めたくなかったので
あと1つあと1つ山を乗り越えてみよう
そう言い聞かせてなんとかエイドを出た
何かを諦めたり失敗しそうな時に弱い方の人間の心に勝った瞬間だ
弱い自分の心は変わっていなかったが
しかし神様はこの10年間の報いにちゃんとご褒美も用意してくれていた
このレースでも最難関でもある2900mオーバーのピークでもありこのアンドラ公国の最高地点でもあるComapedrosaを登りきった時にそこには見た事も無いような絶景が広がっていた
ここで1つ例え話
毎日当たり前の様に飲めるビールの味と、頑張って頑張って仕事をした後に飲むビールの味がなぜ違うのか
同じ銘柄の同じビールを飲んでも絶対的に味が違う様なことを誰もが1度くらい味わった事があるのではないだろうか
同じ物なのに味が違う
これが人間の創造した科学など所詮完璧ではないという根拠である
キツい思いをして登ったピークは
キツい練習を乗り越えてここまで来たピークは
ここまで続けたからこそ神様が用意してくれた
僕の目にだけ映っているこの絶景は格別だった
景色を見て自然と涙が溢れたのは生まれて初めてだ
【2回目の朝】60㎞〜
美しい夕暮れに感動するのも束の間で夜になると僕はまた絶望していた
20時間近く走り続けたのにまだ70㎞前後しか進んでいないのだ
まだ半分すら終わってないなんて…
もしかしたら次のエイドが限界かも
もしかしたら100㎞地点でリタイヤしていまうかも
でもそうだとしても行かなきゃ
まだやめるには早過ぎる
夜が極端に苦手な僕は夜通し走るレースの時はひたすら夜が明けるのを願った
だけれど今回は日中が暑過ぎて夜が明ける前に行ける所まで行って距離を稼がなきゃと常に思っていた
案の定2日目の朝が来ると今日も暑くなりそうだ
もうすぐ24時間
ぼくはありがたいことに特にケガもなくまだ走れている
ただまともな部分も残されていないが…
あとさらに24時間なんて無理だ
ただただ絶望を感じていた
補足としてさっきから走っているという言葉を使わせてもらっているが
このレースの山々は険し過ぎて他のトレランレースのように走っているとは程遠い
だからスピードは遅い上に高度で上に上に登らされてばかりで全然距離が進まない
それに加えてスタート後に高度2,000mを超えると3,000mとの間を行ったり来たりで2,000m以下に戻ることはほぼ無く
低酸素状態で脚は重く息苦しいのがずっと続くのだ
【3回目の朝】レース終盤
130㎞地点
日も暮れて太陽の暑さはなくなったが夜は夜で眠さと暗さでペースが上がらない
それよりも何よりも24時間前にも同じ事を苦悩していたのに
まだそれを続けてるという自分の状況に元々頭のおかしい僕でも頭が破壊されそうになった
ちなみに今回の目標は48時間総合100位以内で完走
各国の過酷なレースやマイラーが集まるこのレースではUTMBに出ていることなんて大して珍しいことでもなんでもなく走力で言えばそれぐらいが最低レベルである
100位とは低めに設定したが周りのレベルからするとそのぐらいが妥当だ
作戦はサポートからも言われた通り
「70㎞まではとにかく抑えないとその後脚が保たない」
としつこいほど聞かされていたので忠犬ハチ公の様に忠実に守る。
時間で48時間は天候も考えたら変動するので早々に意識するのはやめる
順位だけは確認しながら後半まで150位くらいをキープすれば残り50㎞ぐらいで50位は上げられる計算だ
そして
スタート地点を合わせて
3回目の朝が明けた今日も晴天
もはや意味がわからない
これは寝て起きてまた走るステージレースではない
続けて走るレースなのに3回朝が来るって意味がわからない
仮眠の合計は結局あまり寝れそうになかったのでエイドの30分と道端の5分のみ
それで3回目の朝が来てもまだ走り続けられるって人間の身体はいったいどんなつくりになっているのか不思議でしょうがない
脚を筆頭にあちこち痛いが40時間130㎞走っていて痛くない方がどうかしてる
大きな体のトラブルは出なそうだ
たぶん行きのバルセロナの教会で
「僕にレース中に大きな事故や怪我なく、怪我をするなら代わりにツアー会社の今回はレースに出ない久保さんがしますように🙏」とブラックマリア様に願ったのが効いてる様だ
3回目の朝を迎えたら残りピークを2つと距離で30㎞くらい
この進んでも進んでも距離を稼げないコースでも
それでもさすがにここまで来たら嬉しかった
泣いても笑ってももう夜は来ない
このレースの凄いところは軽い所がないところだ
普通はレースには強弱がある
キツい登りもあれば気持ち良く走れる区間もあるように
しかしこのコースにはそれが全くない
急登させられたと思ったら急降下させられ平らかと思えば足元はガリガリでまたすぐ急登が始まりとても走れない
何をどうしたらこんなコースを170㎞も作れたのか不思議でならないが
This is The Andorra.
それでもやっぱり明けない朝はなかった
100mileレースはこれで最後にしようとレース前にも書いていたが
それでもやっぱりまたやりたいと思ってしまうかと考えていたが
レース中は終始キツくて
こんなこと早く辞めたい終わらせたい部屋のベッドで寝たい
そんな事ばかり考えている自分がいた
結局僕は10年前と変わってなかった
初めて出た多摩川のハーフマラソン大会で石コロをまたぐことにも苦悩しながら晴天の空の下愚痴ってた自分は
10年経った今日も晴天晴れ渡る空の下愚痴ってる
だけど違うのは
多摩川の土手の石コロではなく
ヨーロッパピレネー山脈の2,900m級の山々だ
これをもし成長と呼ばないのなら何が成長か
こんな僕だけどやったらできた
結果は51時間以上かかってしまたが最後の30㎞で抜いて100位は切れていたはず
本当はもっと抜けると思って最後飛ばしたんだけど90位台に入ってからどれだけ追っかけても前がいない。恐るべしアンドラだ。
あまり普段自分を褒めれないけれど
今回は自慢できるとすれば
悩んだ末にお調子者の僕が選んだ途中で捨ててしまうだろうと思ってたトンガリ帽子を最後までかぶり続けた事と
このアンドラで99%の人がストック有りなのに僕はストック無しで100mile走り続けたことだ
なぜそんな事をするのか?
たまに聞かれると
「ストックは山を傷つけるから」
と最もらしいこと言ってるが
本音は
自分の脚だけで走り切りたいというただの自己満だ
- ストックは持たない
- 痛み止めは使わない
- テーピングに頼らない
このスタイルは僕の変わらぬトレランスタイル
これでほんとにとうぶんはマイルレースとはお別れだけど
いつかまたもっと強くて優しくて賢い自分になれたらマイラーでもっと高い所へ挑戦したい
だけれどマイルレースは本当にキツ過ぎて少しお休み
今回はほんとはもっと登場させたい人物がたくさんいるのだけれど
その誰もが僕より凄すぎて見劣りするので敢えて誰も登場させずに終わりますw
でもレース中も前後も含めて
僕から見て僕が主役の自分の人生の中に登場してくれた
貴方にとっては貴方が主役の人生を抱えている貴方がいたから
僕の人生はこの旅は色彩を持って輝いている
自分にとってプラスな人も出来事もマイナスに見える人も出来事も
全てを含めて1つも欠かせない大切な色
My right Your left.
さぁ次の旅へ出かけよう
次回特別編に続く…かも